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夜は、こんなにも心揺さぶるものだっただろうか。
頭上に広がる星の海。夜景ばかりが煌びやかな街とは違い、限りない空の輝きが美しく目立つ。
視界の頼りになるものは、月明かりと、手元で揺れる提灯のみ。一般道路には設置されて当たり前の街灯も、この村にはほとんど存在しない。
“都会”という華やかな言葉とは全くかけ離れた環境に、美樹は酔いしれた。
車の騒音が響かない闇の中、鈴虫が鳴く。
「なーに、ぼけっとしてんだよっ」
先を歩いていた亮が振り返り、手に持つ提灯の光で美樹の顔を照らした。
「べ、別にぼけっとなんか……やっぱりいいところだなって思っただけだよっ」
「そうかぁ? 都会育ちの坊ちゃんが羽伸ばすには、物足りねぇんじゃねーの?」
「ううん。むしろ……充分すぎるくらい」
不安定に流れてくる風を受けながら、美樹は笑い、本音で返した。
「ここにいると、余計なこと考えなくていいっていうか……のんびり出来るから」
祖父のいる田舎で夏を満喫するのは、美樹にとって夏休みの恒例行事となっていた。
父と母と住む家や学校での毎日は、勉強だの習い事だので息が詰まりそうになる。忙しない日々を生きていけるのは、一年に一度、この村で穏やかに時間を消費出来るからだ。
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