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「あー、可愛い子はっけーん!ちょっと行って来るから、後宜しくねー♪」
「ちょっ……詩夢ッ!!」
ふらりと居なくなる
いつも………そうだ
と、遠く響く笑い声を聞きながら思う
貴方はふわり、ふわりと雲の様に掴み所がなくて、ゆらり、ゆらりと蜃気楼の様に不確かで
いつも届くのではないか…期待を持たせては、のらりくらりとその手を躱す
「………………はぁ……」
手元にある書類の山を見詰め、貴方が居た、貴方の指定席の隣に腰を下ろす
何度目だろうか、知らずのうちに口を零れる溜め息は、貴方が居ない心の隙間を埋める為に
「良い加減気付いても良いんじゃないですかね?」
自他共に認めるサディストの私が優しい理由
私が貴方をこんなにも想っている事を
「なんて…夢ですかね」
貴方は変に鈍感だから
きっと気にも留めないでしょう
私が貴方の傍に居ることも
「───……ま……ば様、因幡様」
「あ…え?」
「申し訳ありません。何度も声をお掛けしたのですが、お返事がございませんでしたので」
なんて事だろう
それ程までに耽っていたとは
「こちらこそ悪かったですね。書類、お預かりしますよ」
「ありがとうございます。………因幡様、何かございましたか?」
「はい?」
「いえ、普段とご様子が違いましたので。私の思い過ごしでしたら申し訳ありません」
非常に分かり難い表情の変化が、しかし私へと感情を投げ掛ける
そうか…柊になら分かってもらえるだろうか、この胸の内を
教えてくれるだろうか、振り向かせる術を
いっそ、自棄だ
「あの雲はどうすれば捕まえられますか?」
謎かけの様に一つ、真意は伝わらなくとも
ただ勘が鋭いから、きっと柊は気付く筈
言葉の真意…胸の内に
「遥か“銀河”…“宇宙”では遠過ぎる。“地”に立ち、手を伸ばしても、掴めるのは僅かな空気ばかり。空を飛び、近付き過ぎれば散ってゆく。“太陽”では、雲を創り出すだけ。ならば“空”になれば良いのです。雲を包み宥める“空”に」
「違いますか?」と、僅かに下げられた眉
端から見れば、何の話か到底分からない様な言葉ばかりが響き合う
ただ、それはこの間では成立していて、充分過ぎる答えになっている
「ありがとうございます」
「いいえ、お役に立てて嬉しいですよ。では、私はこれで」
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