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朝
そう、朝
ただ違和感があるだけの、朝
特に変わらない
ただ、違和感があるだけ
その違和感
違和感の正体は……
「んっ………」
私の隣で眠る、愛しい愛しい人
最愛の人──詩夢
「まったく…いつの間に忍び込んで来たんですか?」
指通りの良い鳶色の髪を梳きながら、隣で心地良さそうに眠る詩夢に問い掛けた
返答がないと、分かっていながら
勝手に緩む頬を、抑えながら
「…い、なば…?」
寝惚けて舌足らずに言葉を紡ぐ口が愛おしい
薄く開かれた鳶色の瞳が愛おしい
ただ、薄く開かれた瞳は、何を思ったかまた閉じられた
「詩夢」
可愛らしい行動に、思わず笑みが零れる
分かってるよ、詩夢が求めてるモノは
ただ、ここでソレをあげてしまったら
ここで貴方を起こしてしまったら
お姫様はきっと、私の元から離れてしまうから
雲の様に、蝶の様に、ふわふわとどこかへ行ってしまうから
「………あと少しだけ、独り占めさせて下さい」
瞳を閉じた貴方に、聞こえる様に呟いて、そっと抱き締めた
お願い、今だけは私のものでいて下さい
そう願って、綿菓子の様な甘い香りに顔を埋めた
すると、腕の中の詩夢が軽く身動ぐ
それを不思議に思い腕を緩めれば、途端に搗ち合う視線
睨む様な…詩夢の視線
そしてゆっくりと、詩夢は口を開いた
「お前は俺を独り占めするのは少しでいいと思ってるのか?俺の頭はいつもお前に占拠されてるってのに」
刺々しい言い回しに、思わず眉を顰める
だが、詩夢はそんなのはお構いなしに、「もういい起きる」と気怠げに体を起こそうとした
やっぱり…貴方は私の前から去って行こうとするんだ
だから起こしたくなかったのに……
お願いだから、行かないで
私から離れていかないで
その思いから、起き上がろうとする詩夢を押さえつけた
「…………行かないで…下さい」
恐らく今の私は、情けない表情をしているに違いない
それ程までに恐れている
貴方が離れていく事を
本当なら、行くなと言って鎖で繋いでおきたい
誰にも見られない様に、部屋に閉じ込めておきたい
私からの快楽だけをそのカラダに叩き込んで、私なしでは生きられない程、淫らに狂わせたい
だけどそれは、所詮は私の醜い独占欲というもの
それで貴方を縛ってはいけないと、必死に制御を掛ける
「行かないで……下さい…」
それは私の心からの願いだった
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