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「手…離せ…」
だけど貴方は私の願いを打ち破って、心の深くを抉らんとする
もう貴方は触れる事さえ許してくれないのか
何よりもそれが苦しかった
だが、その考えは脆くも崩れ去る
「馬鹿じゃないのか?」
貴方のこの一言を皮切りに
「本当に俺がお前から離れたりすると思っているのか?分からないなら教えてやる。俺は因幡に依存してんだよ」
まるで夢の中の言葉に聞こえた
これは拒絶に苦しんだ脳が勝手に作り出した幻なのではないかと
拒絶に耐えかねた体が勝手に作り出した虚像なのではないかと
そう疑う程に都合の良い言葉だったから
思わず自嘲の笑みが零れそうになった時、不意に詩夢がぽつりと呟いた
「…好きだ」
………本当に、末期だと思った
とうとう私の脳は壊れてしまったんだと思った
だけど、不器用に首に回された腕や、伝わる鼓動、真っ赤な耳、熱を持った頬
そして……触れるだけの優しい口づけが、私に夢ではないのだと、現実なのだと、そう教えてくれた
それが何よりも何よりも嬉しくて、一瞬意識さえ遠のいた
ああ、好きだ、好きだ
どうしようもない位に愛してる
「詩夢、詩夢」
愛しくて何度も名前を呼んで
「ありがとう…愛しています」
愛の言葉を囁いて
「……キス、しても良いですか?」
わざと意地悪な質問で、顔を真っ赤にさせてみたりもした
「…………バカ」
「はい、馬鹿ですよ。それこそ手の施しようがない程のね」
なんと言われようと、嬉しくて
だからもう一度
「愛しています」
囁いて、キスをした
.
【とある朝の光景】
END
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