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貴大は何気なく走り、何気なく角を曲がった。
ふと目の前が暗くなったことに気づき、
何気なく…
顔を…上げた…
するとそこには、夢で見た、いやちょっと違う?だがしかし似ている…
「うそぉぉぉぉぉ!かに、カニ、蟹!わっ、来るな、来るなぁ!誰か助けて、化け物ォォォ…」
-逃げる、逃げる、逃げる。
貴大には、それだけで精一杯だった。
-逃げる、逃げる、逃げる。
逃げ…
「…あり?」
追っては、こない。
撒いたのだろうか?
いや、ちがう。
誰かが、いる。
闘っている…
「だ、誰だか判らないけど、頑張れ!」
電信柱の後ろに隠れ、小さくなりながら、懸命に応援する貴大、男、22歳!
-そして、現在。
闘っている誰かが女性だと判ったのは、ついさっきのことだ。
街灯があるとはいえ周囲が真っ暗なため顔が見えた訳ではなく、闘う影に長い髪と、ちょっと大きめな………(本人の名誉のために伏せる)を見たのだった。
その女性の影は素早く動き、敵を翻弄している。
貴大が少し首を伸ばして戦況を見ていると、女性の手元がキラリと光るのが見えた。次の瞬間、ドシュッと鈍い音がして、巨大カニのハサミが落ちた。と同時に、紫の血のような生温かい粘性のある液体が貴大の顔を直撃した。
彼女が、倒した…。
呆気にとられる貴大をよそに、女性はそそくさと「後片付け」を始めた。
「♂☆▲〓■○×♀∞□◎…」
女性が何か唱えるが、貴大の耳で聞き取るには、あまりにも距離がありすぎた。
女性が何かを言い終えると、巨大カニは光の粒となって消えていってしまった。
安全を確認した貴大は、今まさに帰ろうとする女性の近くにそっと駆け寄り、
「…あのー…」
と声をかけた。
女性はたいそう驚いたようで、
「ひゃっ!?」
と叫んでしまった。
「あ、すみません。や、あの、た、助けてくださって、ありがとうございました…」申し訳無さそうにそう言う貴大。
しかし女性には、そんな言葉は耳に入っていなかった。
「…っ、あぁ、どうしよう…見られていたなんて…。どう報告したらいいってのよ…」
動揺しているのは明らかだった。
そしてその時初めて、街灯が彼女の顔を照らし出したのだった。
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