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彼女は途切れ途切れにこう語った。
彼女の家は両親と彼女と姉の四人家族。
彼女の父親は、この町からだと片道に二日はかかる程離れている、エイメリーの山で炭鉱夫をやっている。手紙はよくくれるが、月に一度帰ってくれば良い方である。
姉は、二つ隣の町へ嫁に行った。
なので、結局今の家にいるのは母と彼女の二人という事になる。
父が帰ってくると、母は献身的に父の世話をするが、やはり行ってしまうと寂しいようだ。彼女や姉を育てるのに精一杯だった頃は、まだそれが逆に支えになっていたようだが、姉が家を出て、彼女に手がかからなくなって、外に働きに出てしまうようになると、父の稼ぎが良いので母まで働きに出る程でもなく、家事しかやる事がない母は全く時間をもて余している。
彼女が働きに出てから、周囲の人間だけでなく彼女自身も妙だと思うくらい、母に呼ばれる事が多くなった。
行ってみればその用件は本当に些細な事で、大きな虫が出た、家々を回って物を売る商人がしつこい、急に心配になったという用件で呼ばれる事も少なくはない。しかしどれも決して彼女が働きに出るのを妨害するつもりはなく、またふざけている訳でもなく、とても大真面目に「嫌だわ、困ったわ、ねえどうか助けて」と思って呼ぶのだ。その証拠に、呼ばれて行くと必ずひどく途方に暮れた顔から心から安堵した顔になるのだ。
見ている近所の人も、口を揃えて「あれは演技ではない」と言う。
最初の頃は一々何事かと思って仕事を放り出して見に行っていたが、次第に呼ばれるのが鬱陶しくなり、今となってはそれすら通り過ぎてあまりの必死さに母が憐れに思えてきた。
しかし、自分の仕事にも支障をきたしているし、母の為にもこのままでは良くないはずだ。
「だから、『糸』を切って欲しいのです」
そう言って、女は言葉を結んだ。
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