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「いいですか、お嬢さん」
髪を束ねた眼鏡の男が、涙目の女に告げる。
「悪い事は言わないからお帰んなさい」
「どうして!」
女は目を潤ませたまま、その形を鋭いものにした。
「私は! どうしてもあの人の事を忘れたいんです! もう、呼び声なんか聞こえるはずないのに……それでもそれに縋って待つ自分が忌々しいの! ねぇ、貴方『鋏師』なんでしょう? どうして切って下さらないの……」
詰め寄り男の肩を掴む女に、男は一瞬憐れみの色をその表情に閃かせた。しかし次の瞬間にはそれを消し去り、肩を掴む手を取って握り、睨む女の視線に真っ向から対峙する。
何かを見透かすような目だった。
あまりにもまっすぐで力強いそれに、女が僅かに身を震わせて怯んだ。
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