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昔、人は今より少しばかり敏感だった。
その中でも、ある地方に住むアウネドティーと呼ばれる者達は、遠くまで羊を放して移動していても、有事の際にはすぐに戻れるように、親しい者同士のお互いの心に『糸』を繋ぎ、それを伝って相手の名前を呼ぶ事ができた。
ただ呼ばれている事、誰に呼ばれているかが分かる、それだけで十分だった。どんな事であろうと、自分を呼んでくれた人を助けに行くべきなのは確かなのだから。
時代は変わり、アウネドティーの者達も羊を追うのをやめ、街に住むようになった。辛うじてその『糸』はアウネドティーの者達に残っているが、今まで不文律として取り決められていた呼ぶ時の基準はいつしかあやふやになり、自らその『糸』を見る事も、切る事も出来なくなっている。
そんな中、未だに見る事や切る事が出来るある一族の一人であったこの男は、仕立屋として生計を立てながら一方で『鋏師』と呼ばれ、もはやアウネドティーの者たちでさえ自分では扱いきれなくなった『糸』を、代わりに切る仕事を生業にしていた。
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