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にほんめ
ひとしきり泣いた後、女は諦めて帰っていった。
この店を訪れた時は、斜向かいのベスティア婆さんに評させるなら「世の中の汚い部分は見ずに育ちましたと言うような、清純ぶったいけ好かない顔」だったのだが、店を出る時はどこか晴れがましいような、芯のあるしたたかな表情をしていた。まぁ妬ましがりで口の悪いベスティア婆さんは、どんな顔でも若いというだけで「いけ好かない」と評すのだが。
女は老若問わず強い、と思いながら、男は出した茶のカップやポットを片付けた。
窓の外はどんよりと雲が垂れ込めている。先程の女は遠い町からわざわざ『鋏師』の自分を尋ねて来たというが、雨に降られず自分の家まで帰れるだろうか。
『鋏師』の仕事はあくまでそういう人間が必要だからしている役職のようなもので、男にとって仕立屋こそが本業である。仕事着の紺のベストにされた刺繍には、鋏の他に組紐や針が精緻な模様で縫い取られている。
男がやれやれと呟きながらテーブルを拭き、頼まれているシャツの仕立ての続きを始めようとした時、乱暴なノックの音がそれを中断させた。
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