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「で、何の用なんです」
「そうそう、それだよそれ」
小男はへへへと下品に笑うと、ずいっと眼鏡の男に顔を寄せた。反射的に眼鏡の男は嫌そうな顔をした。
「おれさぁ、今借金取りに追われてて」
「知ってます」
「それで中でも『糸』繋がってる奴ぁそりゃもううるさくてうるさくて」
「知ってます」
「で、だな!」
小男はぱんと手を叩いて大見栄を切った。
「そんな奴らなんざ、世の中にごまんといる。そいつらのそんな『糸』を切ってやりゃあ、そりゃあ喜ばれるってもんさ。どうだ、これでおれが顧客連れて来てやるからよぉ、これで一儲けしな「お断りします」
眼鏡の男はみなまで言わせなかった。
「そういうくっだらない依頼は今まで何度か来ましたが、全部突っ跳ねました。大体、顔馴染のあんたの依頼も今までさんざ断ってんですよ?それを、赤の他人の依頼を受ける訳がないなんて、ちっと考えりゃ分かる事じゃないですか」
くどくどと言われても、小男はめげなかった。
「いやいやいや、お前借金取りの呼び声がどんだけ怖いか知らないだろ。夢にまで見ちまうくらいだぜ?儲けは七:三で……いや六:四でいい!」
「何ちゃっかり自分の取り分多めに勘定してんですか。お金の事なんかどうだっていいんです。私の本業は仕立屋、『鋏師』なんか精々副業の慈善活動みたいなもんなんですから。第一、借金取りが怖いってんなら、みすみす関わる訳がありません」
「頼むよ、人助けだと思ってさぁ」
小男はついに床に膝をついて頭を下げ、指を組んで拝んだ。
「人助けがやりたいんならとっととまともな依頼を取ってくる事ですね。さぁ行った行った」
眼鏡の男はにべもない。あまつさえ、しっしっと手を振って小男を追い払おうとする。流石にこれには小男も憤慨して、
「畜生、お前がそんなに物分かりの悪ぃ奴だとは思わなかったぜ!気狂い山羊のひん曲がり角、舌先割れた蛇の息子!ったく、じゃあな!」
と、今時子どもでも言わないような陳腐で使い古された罵倒文句を口にして、足音も荒く出て行った。乱暴に閉められたドアから、捨て台詞のように寒風が吹き込んだ。
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