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肉の斬れる音と悲鳴。 河岸見世の一部屋から、男がひぃひぃ叫びつつ出て行った。 河岸見世とは、店からあぶれた下級遊女の商売所で、ここの遊女は店と比べ格安の為、ただ少し遊びに来ただけだったり、あまり持ち合わせのない男達にとっては都合のいい所。 そして最大の利点は、逃げが利く事だった。 料金が後払い式の為に、事が済めば逃げ出すと言う事が出来た。 下級遊女の訴えなんて物は在って無いような事。 罪には問われず、遊女は金が手に入らなかった事を泣くしか無いのだった。 逃げ出した男もその手の輩だったのだろう。 ただ、男は襲う相手を間違えた。 「売らずの遊女」の部屋に押し入り、事もあろうに遊女の警告も聞かず襲いかかったのだ。 彼女は迷わず常に持ち歩いている脇差しで切りかかり、男は左の腕を斬られ、悲鳴を上げつつ逃げ出した――と言う事だった。
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