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 「ちょいと! 誰か来とくれ!!」 女将のお糸が誰とも無しに奥へ呼び掛けると、すぐに「あい」と声が返って来た。  「お呼びで?」 出て来たのは、売らずの遊女。 お糸は遊女に、「お客様さね。 部屋へ案内しとくれ。」と言い町人と見える男を引き渡した。  「あい。 こちらで。」 遊女は男の斜め前を歩き、店の廊下を進む。  「その格好、あんた売らずの遊女かい?」 客の男が遊女に声をかけると遊女は「あい、人はそう呼びやす。」と、返した。 はあー、と感嘆の声を漏らす客に、遊女は部屋についた旨を伝え、その部屋の遊女に客を渡して奥へと去って行った。 しばらくもすれば、またお糸が呼ぶだろう。 売らずの遊女の生活はこの店の雑用と河岸見世に来る客へ気紛れにふっかける賭博で成り立っていた。
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