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酒場の中は妙な造りだった。
異様に大きな縦長の部屋が1つだけ。
そして部屋を縦断する絨毯、規則正しく並べられた禍々しい石像……
そして何より不思議なのは、人がいない事だ。
いや、正確には1人だけ。
百々目色の体表に、重厚で攻撃的な鎧を纏い、頭から角を生やした御仁が、きらびやか椅子に座っている。
やべ、店間違えたかな。
「勇者よ。待ちわびたぞ」
「えっ?」
「えっ?」
………
……
…
さて、読者の皆よ、思い出せ。
勇者は記憶喪失。
果たして勇者は酒場が一体どんなものか覚えていたのだろうか。
否。
断じて否!!
今の勇者に魔王の城と酒場を区別する事かなわず!!
重ねてこれを記憶の底から引き摺り上げろ!!
魔王sideの描写
【うむ。やっと勇者が近づいてくるな。】
全てが繋がり、理解に及べ!!
今、勇者は……
酒場と間違えて魔王の部屋に突撃したのだ!!
勇者を助けたのは、魔王に反旗を翻そうと企むゼピルム邪教皇。
邪教皇の部屋から魔王の部屋までは一直線。
途中にあったのは宝箱ではなく、城の修理に使う道具箱。
そしてどこの世界にそのような武器があるだろうか?
わざわざ置いてある説明書きの存在からも理解せよ。
馬鹿な勇者にそれを装備させるためのトラップだったのだ、と。
………
……
…
「あー、なるほど。お前魔王なんだ」
「やっとわかってくれたか……」
30分後、ここが魔王の城であり、コイツが魔王であることを俺はやっと理解した。
そして、真の敵が俺を魔王の前に送り出したゼピルム邪教皇であることを。
「なるほど確かに。俺は勇者で魔王なお前の敵かもしれない。だがその前に、共通の敵が居るはずだ」
「ゼピルム……信じて、いたんだが……ああもう本気で死にたい……」
「後でいくらでも殺してやる。だがお前には部下の不始末にケリをつける義務がある」
「その、ようだな」
魔王と勇者。
皮肉にも、決して相容れることのない、そしてこの世で最も強い部類の2人が、その志を同じくしたようだ。
「渦巻き燃ゆる、鋼の枷よ。今はその力を抑える為では無く壊す為に吐き出せ。其は何物より黒き魔の円環、アンリミテッド・ブレスレッド」
魔王が呟くと、俺の両手に黒く渦巻く枷が現れる。
「それは拘束呪文を反転させた、逆拘束呪文だ。お前はその潜在能力を100%解放する」
ああ、誰も俺達を止められない。
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