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「俺、腹立ってさ」
その一言に、私は身を震わせてしまう。
彼が怒るのも当然だ。
私だって、彼が辛い時に私に黙って一人耐えていたとしたら、なんで相談してくれないの、なんで一緒に悩ませてくれないのと怒り、悲しむだろう。
しかし、彼は震える私に気付いたのか、大きく首を横に振った。
「違う、弥生に腹立ったんじゃない。俺は、弥生に辛い思いをさせたアイツと、なによりすぐに気付いてやれなかった俺自身に腹が立ったんだ」
涙はすでに止まっていたが、それでも苦しそうに眉根を寄せている彼に、私は胸が押し潰される思いに駆られた。
「違う!だって、私が相談しなかったのが悪いんだよ!私が黙って、一人で抱え込んでたのがいけなかったんだ。あなたは、悪くない」
唇をぎゅっと噛み締め、私は彼の目を見ていられなくなり俯いてしまう。
「…………ごめん」
ぼそりと、呟くように発した謝罪に、彼は私を抱く腕に力を籠めた。
そのせいで身体に痛みが走ったけれどその痛みを無視して再び、ごめん、と呟く。
「謝るな……」
そう彼が言ってくれたけれど、私は謝らずにはいられなかった。
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