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おじいちゃんの昔話
「昔々、あるところに男が一人おった。その男の家はとても貧しくての。あの山で山菜を取って細々と暮らしていたんじゃ。……
年も暮れたある日。
一人の若い男が夕方、山に向かって歩いていく。
村人に売りすぎて、夜に自分が食べる分が尽きてしまったのだ。
「おう、どこ行くんだ?」
村から出ていこうとする男に、村人が声をかけた。
「ちょっと山に…」
「こんな遅くなってからか?ダメだダメだ!今行ったら山に喰われちまう」
「大丈夫さ。山が人を喰うわけないだろう。何故ビクビクしないといけない?」
村人の忠告に耳を貸さず、山へ踏み込む。
最初のうちはおっかなびっくりで入っていた山だが、今となっては慣れきっている。
しかし夕方に入るのは初めてだった。
無事に山菜を採り終えて顔を上げると辺りはすっかり真っ暗になっていた。
「やっぱり…気味が悪いな」
『山に喰われちまう』
村人の忠告が頭を過ぎるが、
「いや、どうせただの言い伝えだ。本当に起こる訳無いだろう」
と振り払う。
ゆっくりと道を確かめながら山を下り始めた。
しばらくすると村の明かりがぽつぽつと見えてきた。
「なんだ、別にどうってことないじゃないか」
そう思った途端、
男は足を滑らせた。
「うわぁぁぁあぁぁっ!!」
落ちていく。落ちていく。
幸い木に引っ掛かって止まった。
生暖かいものが頬を伝う。
次第に意識が薄れていく。
目が霞む。
最期に男が思ったのは
「山は本当に人を喰う…の…か……」
それだけだった。
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