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日も完全に暮れて、真っ暗になった。
傷も全然痛まなくなっていて、改めて神主の手当に驚いた。
もうすぐで新しい年がやって来る。
「そろそろ家に帰れるかな…」
部屋に焚いてあった明かりを取って神社の入り口に降り立つ。
――お世話になったのに、何もいわずに帰るのか。
なんとなくチクリと心が痛んだ。
「でも…妹が……心配なんだ……」
男の妹は今、病の床に就いていた。
家は裕福というよりはむしろ貧しい方だ。
だから薬を買ってやることも出来ず、どんどん悪化していくのをただ見ているしか出来ないのだ。
そんな妹を一人で2日間も家に置いている。
最近はすこし楽になったらしく、起きて料理をするぐらいは出来るが…
もしも突然悪くなって苦しんでいたら、と思うと居ても立ってもいられない。
生きているのだろうか。それとも……
不安に駆られつつ、歩き出した。
大きな木が、道の真ん中に立っていた。
その堂々たる姿に思わず足を止めると
「ありゃー、先に見ちゃったかー」
上から声が降ってきた。びっくりして見上げると、女の子がすこし太めの枝に座っていた。
「この木は…?」
「御神木です」
「立派じゃろう?」男の子と神主も近づいてくる。
女の子は身軽な動きで男の子の隣に降り立った。
神主がじっとこちらを見つめる。
しん…と静寂が漂ったが、
神主がおもむろに口を開いた。
「そなた、もう帰るのか?」
怒っているようには感じられない。
男は安堵した。
「はい。今までありがとうございました。何も言わずに出てきてしまい、すみません…」
「気にせんでよい。妹が大事なのじゃろう?そなたに土産を一つやろう」
「おじちゃん、これ」
女の子が絵馬を差し出した。
「これは…絵馬?」
「うむ。絵馬じゃ」
そう言った神主は、次に凄いことを言った。
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