*4 理由

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『……』 『オラ、さっさと持っていけ』 7歳ぐらいだろうか、髪の短い少女が、居酒屋らしき所で料理を運んでいた。 顔色が悪く、ふらふらと、今にも倒れそうだ。 『大丈夫?お嬢ちゃん?』 料理を頼んだ若い女性が、少女の身を案じる言葉を投げ掛けた。 『……チッ』 それを見て、先程料理を持っていけと言った髭面の男性が舌打ちした。 「……」 魔王は、記憶の時間を進める。 夜、客のいない暗い店内。 『オィ、なに客に迷惑かけてんだテメェ!!』 髭面の男性が、少女を怒鳴っているのが見えた。 『ひっ……ごめんなさい、ごめんなさい!』 少女は必死に頭を下げている。 『……おい、顔あげろ』 ふと、男性が声をかける。 『……』 少女はそれに従い、そろそろと頭を上げた。 バキッ! 腹に、拳。 握り拳で、躊躇無く。 『か、はっ……』 その場に倒れ、自分の頬をさわる。 その目には、光が無かった。 『使えねぇクズが。ろくに働けもしねぇならさっさと死ね!』 『……ったく、鬼だかなんだか知らねぇが、テメェの親もいらねぇ奴預けやがって……迷惑すぎるぜ……』 男性は、そのまま店の奥へと消えていった。 『…ゴホッ……、ゴホッ……』 少女はしばらくしてふらふらと立ち上がり、ロッカーから箒を取り出し、店内の掃除を始めた。 「……」 そこまで見て、魔王はそっと手を離した。 「……すぅ……すぅ。」 フルーラは、穏やかな寝息を立てて眠っている。 「……っ」 魔王は、フルーラのぼろぼろになった服の隙間から、無数の痣があるのを見つけてしまった。 「顔は目立つから腹を殴った、という事か……クソッ」 なぜ自分が怒っているのかは分からない。 今までたくさんの人間を殺し、鬼を殺し、時には同族までも手にかけてきたというのに。 なぜ、この娘が殴られたのを見るだけでこんなにも腹が立つのか――― 「……クソッ」 魔王はもう一度呟き、自らの手を強く握った。 強く―――強く―――
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