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「うわぁーーー!!」
まだ、寒さの残る早春の朝ここ、珠来(シュンライ)を統べる宮廷の奥に位置する後宮に叫び声が響いた。
声の主は、皇帝付きの秋羅(アキラ)まだ二十歳にも満たない青年である。
後宮中の扉と言う扉を開けて何かを捜している。
そのたびに女中達の黄色い声が響き渡った。
後宮から皇帝が執務を行う朱桜殿(シュオウデン)へと続く廊下を駈けぬこうとした時、二つの影がこちらへと向かって来るのに気付く。
「朝から騒がしいと思ったら秋羅か」
五十半ばの男、取り乱して衣服を乱して息を切っている秋羅を見てため息混じりに言う。
「姫がどこにもいらっしゃいません!! どちらにいるのかご存知でしょうか?」
今にも掴みかかりそうな勢いでまくしたてた。
二人は顔を見合せ困惑する。口を開いたのはもう一人の男、胸まである白髪の長い髭を擦りながら、静かに言った。
「落ち着きなさい。あれにはわしらの用事を頼んだのだ。 少し長くはなるが、半年もあれば帰ってくる。その間の執務はわしらで行う、問題はない」
間髪入れずに答える。
「そう言う問題ではありません! 今年は国試の年です。選抜はすでに始まっています!
当の本人がいないのでは話しになりません!!
居場所を教えてください!!」
三年に一度、一年を通して国試が行なわれ、国中の人々が宮廷のある珠都(シュト)へ集まってくる。
文官、武官を一気に登用する為に宮廷は一年間慌ただしく動く事になる。
今年は特に皇帝が新しく起ち、皇帝の私軍である禁軍の最高位、将の位を決める選抜がある。
その為、いつも以上に宮廷内は殺気立っていた。
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