序章

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一九九九年七月二十五日(土) 午後十一時三十九分  人気のなくなった商店街に、扉をたたく音だけが響いていた。 「恵理子さん、恵理子さん」  温井浩二は扉を何度もたたく。『Closed』の札の掛かった扉を開けた先で少し作られた空間で、二つ目の扉をたたきながら、彼の心には不安が渦巻いていた。ただ愛する人の名前を呼び続ける事だけが今の彼にできる事だった。いったいどれぐらいの間たたき続けていたのだろうか、店の中で何かの動く音が聞こえ、浩二は扉をたたく手にさらに力を込めた。
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