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「そういえば、帰りに魔法で悪い奴を云々って言ってたな」
「ああ、待ち合わせ時間がちょっと早かったからな。部活を早退した」
「待ち合わせって、あいつらと?」
「そうだ」
ほう。あの黒タイツどもは友佳と待ち合わせしてたのか。敵があばれているのに偶然出くわすとか、そんなファンタジーなことはないんだな。現実の魔法少女は。いやー、やっぱり現実ってそんなもんだね。ヒロインと敵役が待ち合わせしなきゃ出会えない時代なんだな。ちょっと悲しいわ。
「敵役もいろいろ苦労してるんだな」
俺はしみじみとそう言った。
「そうだな。愚痴を聞く身にもなってくれと言いたい」
「分かるぜその気気持ち」
いや、分からんけど。
「分からんくせに」
友佳に心を見透かされた。
「まあ、分からんな。敵の愚痴を聞くヒーローの気持ちは」
「ままならないな、この世は」
遠くを見る目で友佳が言った。
「テストの点とかな」
「それはおまえが悪い」
即答だった。確かに俺が悪い。
夕闇が闇に変わっている。
電柱についている貧弱な蛍光灯の明かりの下、友佳が立ち止った。
「じゃあ、またね」
「ん、ああ」
俺は軽く手を振った。そのまま進みかけて、立ち止まる。遠ざかっていく友佳の後姿をぼーっと見送る。たっぷり十分ほど、友佳の姿が角を曲がって見えなくなるまでそのまま立ち尽くした。
腹が減った。俺もたませんを買えばよかったかもしれない。早く家に帰って夕飯を食おう。
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