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「単刀直入に言うと、迷っちゃったのさ」
なんかすごくフランクに話しかけてくる。理知的な第一印象が崩れゆく。がらがら。
「はあ」
拍子抜けした俺が言う。
「ここ結構入り組んでるじゃん? 来訪者であるあたしには荷が重い」
「まあ、確かにそうですねえ」
このあたりは住宅街なので、道がごちゃごちゃしている。行き止まりも多ければ分岐路も多い。
「というわけで案内してくれ少年」
「どこへ行きたいんですか」
「西高」
俺の高校か。今まさにそこから来たとこなんだけど。
「その制服西高だろ? ちょうどいいじゃないか」
「……今来た道をすぐに戻るのは、なんかもったいない気がする」
「はっはっは。ならあたしとのデートだと思いながら歩くことを許す」
「それで元気になると思うんですか」
「思う」
即答。しかし誤答。なれなれしすぎて引いた。
「じゃあ、まず手をつなごうか」
「結構です」
俺はしぶしぶ元の道を引き返す。うへー。変な人に絡まれちゃったなあ。
しかしこのお姉さん、高校になんの用だ?
お姉さんは道中、最近引っ越してきてここからはちょっと離れたところに住んでいるとか、職業は雇われ店長だとか、どうでもいいことばかり一方的に話していた。
「おー。着いたな。ありがとさん」
高校の正門前でお姉さんが言った。
「どういたしまして」
と返す。
「高校に何の用ですか?」
と訊いてみた。
「いやー。いろいろあるのよ。大人の事情ってやつ」
答える気はさらさらないようだった。
「じゃあ、俺帰るんで」
「ああ、じゃあまた今度」
不吉な単語が聞こえたが、無視する。
本日二度目の下校が始まった。
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