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「なあ友佳、俺大丈夫かな」
「多分大丈夫でしょ」
「多分て」
「すぐ着くから」
「はい……」
なんか、一秒が十秒くらいに感じられる。視覚が無い状態で恐る恐る歩くってホントしんどい。
数分歩いて、なにかにぶつかった。壁にしてはやわらかいし起伏が多い。どうやら人間にぶつかったようだ。おそらくメイドさんだろう。今、俺の手が当たった場所はおしりだと思うのだが、メイドさんは気にしてないようだった。俺も気にしないようにできるだけ善処する。立ち止まるなら止まるって言ってくれ。催したらどうするんだ。
がちゃ、とドアの開く音がして、また引っ張られる。
「そこに立っててください」
メイドさんに言われる。
「はい」
目隠し取ってくれないかな。
「哀れだな、斉藤」
友佳に言われた。
「うるさい」
と言い返す。
「目隠しは取ってあげよう。手錠はどうしようもないけど」
友佳が近付いてくる気配がして、耳にかけられたゴムを外してくれた。視覚が回復するが、
「眩し!」
すぐ目を閉じた。必要以上に明るい部屋のようで、今まで暗黒世界で暗順応していた俺の杆体細胞が悲鳴を上げた。
「大丈夫? 大丈夫か」
なぜか友佳が質問を自己完結した。
目はすぐに慣れた。真っ白な立方体の部屋。照明は見当たらないがなぜかとても明るい。
「座ったら」
真ん中に円卓。それを囲むように椅子が四つ。俺は友佳の隣に座った。
友佳はお茶を飲んでいる。
「博士はまだか」
と訊いてみる。
「どうだか。あんまり待つのもいやだな」
同意。
友佳は机に突っ伏してしまった。俺もしたかったが、手錠のせいでうまくいかない。
博士、早く来ないかな。
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