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俺は小さい時、家庭の状況が決してよかったとは言えなかった。まあ、現在進行形でもあるのだが、いまではもうどうでもいい。 とにかく、俺は幼少のとき、家に帰らない子だった。姉が迎えに来るまで公園で1人で遊んでいた。 いつの間にか一緒に遊ぶ友達ができていて、それが友佳だった。友佳の家庭事情は知らないが、俺が遊んでる間ずっと付き合ってくれた。 空に星が瞬き始めても、家に帰らずに俺と一緒にいてくれたのだった。 「おまえは、なにかなりたいものはあるか」 砂の山を作りながら、友佳が尋ねてきた。 「……ない」 その時の俺は、砂山に白い砂をかけながら答えた。 「わたしはあるよ」 友佳が山の形を整えながら言った。 「 」 友佳はなんと答えたのだろう。覚えていない。俺はその時、ふーん、と思った。つまり、突拍子の無い答えではなかったのだろう。小さい子が普通に考えるような夢── 空を暗い青が覆っていく。赤が飲みこまれて、星が輝き始める。 「ほしがどうしておっこちないかしってる?」 暗くなって手元が見えない。砂の山を壊しているのか作っているのかわからない。 「おちてくるわけないじゃん、あれはでんきだよ」 俺は言った。 「ちがうよ、あれはひかるボールなんだ」 「じゃあ、なんでおちてこないの」 「ボールをたかくなげると、かえってくるのがおそくなる」 「うん」 「じゃあ、すっごくたかくまでなげたら、かえってこなくなっちゃうんじゃないかな」 俺は空を見上げた。星が、ひとつ、ふたつ、みっつ、いつつ、たくさん。 友佳も空を見上げる。 「なんか、かわいそう」 俺は沈黙ののち答えた。 「かえってくるといいね」 友佳が言った。
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