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「おい、斉藤」
友佳が言った。
「何をぼーっとしている」
俺は現実に帰ってきた。
「ああ、なんだ」
「馬鹿みたいに深刻な顔で考え事をしていた」
高校生の友佳が言う。
「馬鹿は真剣な顔をしないだろ」
高校生の俺が答える。
「そうかもしれないね」
ふふっと笑う。いつもポーカーフェイスなので、たまに表情を見せると結構可愛い。
恋愛感情にはならないけど。6歳までの時期を共に過ごした人間には性的欲望を抱かないとか、そういう心理法則的なにかが働いているのかもしれない。
「またね」
友佳が俺から離れながら言った。
いつの間にか、分かれ道まで歩いてきていたようだ。
いつも、小さい頃から、別れの挨拶は「またね」だったな。
「なあ、今度暇な時、一緒にどこか行かないか」
ノスタルジーに浸っていたせいか、そんなセリフを後姿の友佳に向かって吐いてしまった。
珍しく素早く振り向いた友佳は不思議そうな顔でこっちを見て、
「おまえはわがままだな」
と言い、は? と固まる俺に対してこう続けた。
「いいけど、人ごみにならないところがいいな」
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