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表題が読み上げられても、学はゲームを始めなかった。私も、大剣を振り回す戦士のあまりの迫力に、ただただ呆然としていた。
「最近のはこう、女子供が戦うのばかりと思っていたが……」
「みんなも、迫力あるって言ってたっけ……とにかく始めるよ」
一息付けると、学がゲームを始める。雨が降る森の中に場面が変わり、古い小さな館が映し出されると、カメラがどんどん近づいていく。どうやら主人公が館に向かっているらしい。
「あれ、この店って……」
(似ている……あの店に)
最初は気のせいだと思ったが、それは確信に変わった。
「いらっしゃい。何かお探しですか?」
私は絶句した。館で待ち構えていたのは、あの店員の老婆だった。見ると学も動揺している。そんな私達にお構い無く、ゲームの主人公は老婆とやり取りを続ける。
「ほう。国王の依頼で魔物退治とな」
声も話し方も同じだ。似てるなんてものじゃない、本人そのものだ。忠実に再現される夕方の買い物に、私は鳥肌が立った。
「ならば、この水晶玉を持っていきなされ。そなたを導いてくれるだろう」
「水晶玉!」
虫の知らせとでも言おうか、その言葉を聞いた私達は、同時に後ろを振り向いた。ゲームと一緒に「購入特典」として渡されたおもちゃの水晶玉が、青白く光っている。
「学、勝手に光りだしているが、あれは電池でも入っているのか?」
「そんなはずないよ。確かプラスチック製の……」
テレビ画面と水晶玉、そのどちらを見れば良いのか分からない。老婆が何か一言発したり、水晶玉が光を増す度に、胸の鼓動が強くなる。何かが起きる気がしてならない。
「じ、爺ちゃん……」
「大丈夫。ただのゲームじゃ。ただの……」
得たいの知れない恐怖に駆られ、私達は自然と体を寄せる。そして縛り付けられる様にテレビを見つめた。何故だか目を離せなかった。あまりの緊張に、瞬きすら許されなかったのだ。
「では、ご武運をお祈りします。勇者殿」
老婆がそう言った瞬間、部屋中が強い光に包まれる。私は何かに身体ごと引っ張られた感覚を最後に、そのまま気を失った。
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