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「爺ちゃん! ゲーム買ってよ!」
耳が少し痛くなるが、私はその声を聞くと、まるで車にガソリンを入れるように、体の奥底から力が湧いてくる。騒々しい足音が近づくにつれ、体の隅々まで活力が注入されていることを感じる。
この子は、こんな老いぼれを頼ってくれるのだ。杖なしでは満足に歩くこともできない、残り人生も決して多くは残されてない、こんな自分を。例えそれがおねだりであっても、私には十分だった。
「見てよ! 今新しいのが出てるんだよ!」
「どれどれ……」
孫が興奮して差し出した雑誌の一ページ。老眼鏡を取り出して覗き込むと、そこには巨大な竜を背に、剣を構えた大男が描かれていた。
「ふ……ふぁんたすてっく……ふぁん」
「ダメよお父さん。学(まなぶ)にはてんで甘いんだから……第一誕生日じゃないでしょ?」
表題を読み上げる最中、娘の香(かおり)が上からひょいと雑誌を取り上げる。
「香……」
「でも母ちゃん、学校の友達はみんな持ってるんだよ。毎日その話ばかりでさ」
「で、自分もつい、持ってるって言ったの?」
香の言葉に、学が体の動きをピタリと止めた。
「学は、ゲームがやりたいの? それとも仲間外れが嫌なの? 何にせよ嘘つきは嫌われるわよ」
図星だったのか、香の問い掛けに学はうつむき、黙ってその場から離れていった。
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