728人が本棚に入れています
本棚に追加
「学、爺ちゃんだ」
ドアを叩くが返事がない。ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。
「入るぞ」
部屋に入ると、学はベッドの上で大の字になっていた。表情を見るからに、やはりおねだりが失敗して落ち込んでいる様だ。
「母ちゃんが心配してたぞ」
「うん……」
「隣に座ってもいいか?」
学は起き上がると、無言のままベッドの端に座った。私はその隣にゆっくりと腰を下ろす。
「学は、どうしてその、ふぁんたすてっく……」
「『ファンタスティック・ファンタジー』」
「そうそう。そいつが欲しいんじゃ? ゲームならいっぱいあるじゃないか」
そう言って私は棚を見る。そこにはマンガ本のほかに、きちんと並べられたゲームソフトのパッケージが置いてあった。
「あれはもう、全部クリアしたり飽きちゃったソフトだよ。二度とやらないと思う」
「二度とやらない? 不思議な話じゃな。小説や映画なんかは、何回も見直して楽しめるのに」
「話は一度見れば分かるよ。それにゲームって、とにかく敵を倒して強くなって……ラスボス倒したらもうおしまいだよ」
どうも学の言う事にしっくりこない。自分がゲームをやらない事もあるだろうが、価値観や考え方に溝がある様だ。
「よく分からんが……最後までやったなら、他の部分を見る余裕が出来て、新しい発見や感動があるかもしれんぞ。それに……」
「それに?」
「作品というのはな、終わっても、自分で続きを作れるんじゃよ。これは小説だけじゃない、ゲームでもきっと出来るぞ」
学はそれを聞いて、不思議そうに首をかしげた。
「覚えてないか? 昔画用紙に落書きして、爺ちゃんに話を聞かせてくれただろ? 無地から作るか、ありものから作るか、そう大差は無いと思うぞ」
「そんなの、覚えてないよ……」
何だか話をはぐらかされた様で、学はまた少し顔をうつむけた。
最初のコメントを投稿しよう!