序章 『幻想』 Lost World

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「学、爺ちゃんだ」  ドアを叩くが返事がない。ドアノブに手をかけると、鍵はかかっていなかった。 「入るぞ」  部屋に入ると、学はベッドの上で大の字になっていた。表情を見るからに、やはりおねだりが失敗して落ち込んでいる様だ。 「母ちゃんが心配してたぞ」 「うん……」 「隣に座ってもいいか?」  学は起き上がると、無言のままベッドの端に座った。私はその隣にゆっくりと腰を下ろす。 「学は、どうしてその、ふぁんたすてっく……」 「『ファンタスティック・ファンタジー』」 「そうそう。そいつが欲しいんじゃ? ゲームならいっぱいあるじゃないか」  そう言って私は棚を見る。そこにはマンガ本のほかに、きちんと並べられたゲームソフトのパッケージが置いてあった。 「あれはもう、全部クリアしたり飽きちゃったソフトだよ。二度とやらないと思う」 「二度とやらない? 不思議な話じゃな。小説や映画なんかは、何回も見直して楽しめるのに」 「話は一度見れば分かるよ。それにゲームって、とにかく敵を倒して強くなって……ラスボス倒したらもうおしまいだよ」  どうも学の言う事にしっくりこない。自分がゲームをやらない事もあるだろうが、価値観や考え方に溝がある様だ。 「よく分からんが……最後までやったなら、他の部分を見る余裕が出来て、新しい発見や感動があるかもしれんぞ。それに……」 「それに?」 「作品というのはな、終わっても、自分で続きを作れるんじゃよ。これは小説だけじゃない、ゲームでもきっと出来るぞ」  学はそれを聞いて、不思議そうに首をかしげた。 「覚えてないか? 昔画用紙に落書きして、爺ちゃんに話を聞かせてくれただろ? 無地から作るか、ありものから作るか、そう大差は無いと思うぞ」 「そんなの、覚えてないよ……」  何だか話をはぐらかされた様で、学はまた少し顔をうつむけた。
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