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「物語というのは、あくまで作り手側が用意したものじゃ。それを楽しんだなら、今度は崩して遊べばいい。自分だけの物語、自分だけの規律でな」
それを聞いて、学は少し考え込んだが、話を難しく感じたのか、急に声を張り上げた。
「でも、とにかく『ファンファン』(ファンタスティック・ファンタジー)だけは欲しいの!」
迷いを振り切るように、学の主張は止まらない。
「だって、欲しいのに理由とか理屈とか、いちいち考えるのもヘンじゃん。新作だよ? 自分も楽しみにしてて、友達も楽しみにしてる。それで十分じゃん。何がダメなのさ?」
ここでようやく、私や香の心配が杞憂に過ぎなかったと知った。「欲しいから欲しい」何て事のない、学もおもちゃに駄々をこねる、ごく普通の小学五年生だったのだ。
私は杖を付くと、ゆっくりと立ち上がった。これで何度目になるか分からないが、私は学のおねだりに応える事にした。
「じゃあ、ワシがゲームを買ってやろう! そこで母ちゃんに内緒で買いに行く、というのはどうじゃ?」
一瞬学の顔が綻ぶが、すぐに困った顔で聞き返す。
「母ちゃんが怒るよ。バレたらすぐに売られちゃうかも……」
「お爺ちゃんがどうにかするさ。それに母ちゃんはな、物は捨てても売るようなことは出来ないんじゃよ」
「じゃあ!」
学の満面の笑みを見て、私はニヤリと笑った。
「明日の土曜日、作戦決行じゃな」
「うん!」
私が手を差し出すと、学は力強く握り返した。いつからか二人の間で始まった「おねだり」の儀式と契約が、今ここに完了したのだ。
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