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そして土曜日。私達は駆け出していた。
小さいとはいえ、子供はまるで暴れ馬だ。杖を突く私を気遣ってか、少しは抑えて走っているのだろうが、それでも私の袖をぐいぐいと引っ張って、東へ西へと駆け回る。
「そんな慌てなくても、ゲームは逃げないじゃろ!」
「そうもいかないよ。みんな予約してまで買ってたんだ、急がないと!」
学の予想は的中した。聞けば十分な数があったのだが、予想以上の売れ行きで瞬く間に完売。行く店全ての店員に同じ様に説明され、結局ゲームが買えないまま、私たちはデパートで食事を取っていた。
「まさか、おもちゃ屋でも売り切れとはのう」
ゲームがおおよそ置いてなさそうな、少し寂れたおもちゃ屋なども当たってみたが、そこでも商品はきちんと入荷されており、なおかつ完売していた。本当に売れる商品は、場所も選ばずに売れていくものだと、妙な関心さえ覚えていた。
「だから、発売前から言ってたのに……ほんと分かってないんだから」
学は切り分けられたハンバーグをフォークで突き刺すと、黙々と口に運んだ。見るからに落ち込み加減がこちらにも伝わってくる。
「ご飯、不味いか?」
「そ、そんなことないよ……」
私は少し驚いた。「他人のお金で食べるご飯」を、学はこの歳で理解している。それは大変立派な事ではあるが、残念ながらそれを他人に悟られまいとする嘘の吐き方が、学にはまだ足りなかった。
「隠さなくても良い。落ち込んだときは何食べても美味しくないもんじゃ」
「やっぱり分かっちゃう?」
「ああ。だから早く食べて、また探しに行こう」
そして、そんな孫を見ながら食べる飯も不味い。薄味のカレーを咀嚼しながら、私は学の笑顔を取り戻す方法をどうにか考えていた。
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