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ドアを開けると、ランプの灯だけを頼りに、狭い店内が薄らと照らされていた。入り口の傍で、学が呆然と立っている。
「まるで映画みたい……」
「うまく言えんが、何だか西洋の骨董屋みたいじゃな」
周囲を見渡すと、本当に骨董品であろう、見たことの無いゲーム機やおもちゃばかり並んでいた。ただ日本家屋を思わせる外観と、シャンデリアやカーペットの目立つ内装のギャップに戸惑う。
「いらっしゃい。何かお探しですか?」
しわ枯れた声に驚き、その方向を見る。すると暗闇から抜け出すように、カウンターの奥からフードを被った老婆が出てきた。どこか得体の知れない不気味さと迫力に、思わず息を飲む。
「あ……あの! 『ファンタスティック・ファンタジー』はありますか?」
勇気を振り絞る様に、学が声を出す。店の外観からして、今までとは勝手の違う「無茶な注文」にしか見えなかったが……。
「新作だね、ありますよ」
意外な返事に私は驚いた。半信半疑で老婆の顔を覗き込むと、顔の彫りが深く、どうやら外国人の様に見える。それにしては日本語がやけに流暢であり、ますますこの老婆が不気味な存在に見えてきた。
「こちらでしょうか」
棚から老婆が取り出したのは、紛れもなく『ファンファン』であった。今まで散々見てきた、店頭に掲示する為の紙で出来た模造品じゃない。質感に溢れるプラスチックのケースが、ランプに照らされてギラリと光った。
「確かに本物だ。どこも売り切れだったのに……」
「ここは分かりにくい場所にありますからね。人気商品も売れなくて……ただこちら、中古商品なんですが……」
(中古? 誰かが売りに来たのか?)
そんな疑問が浮かび上がる。いくら人目から離れた店だからといって、人気商品がこんな所に来るのだろうか? 出所に関しては、盗品を売りに来たとか、そういう良からぬイメージを抱いてしまう。
だが学の顔を見ると、念願のゲームを前に、興奮の為か口が開きっぱなしだ。ゲームの出所に対する好奇心は、すぐに消え去った。
「……幾らですか?」
私は財布を取り出した。店の雰囲気もあってか、それはゲームを買うというより、何かの契約を結ばせられる様な、そんな重圧を感じた。
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