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「ファンファンだよ! とうとう買えたんだ!」
家に帰っても、学の興奮は治まらない。ゲーム機を準備して、すぐ始めるかと思いきや、説明書を隅から隅まで読む。私は未だにあの不思議な店を思い返していたが、学を見て次第に忘れていった。
「……そんなに楽しみにしてたのね」
「母ちゃん!」
香の声に学が驚く。実は少し前に部屋に入ってきていたのだが、興奮した学は気付いてなかったようである。
「こ、これは爺ちゃんが買ってくれたんだ! 取り上げようったって……」
「いいから。それよりご飯になったら、ちゃんと降りてくるのよ」
それだけ告げると、香は静かに出ていく。帰り際に私と一瞬目が合うと、香は口元に小さな笑みを浮かべた。
学はてっきり怒られるものかと、一瞬戸惑っていたが、すぐに説明書に目を戻した。
「説明書を読まないと、ゲームができんのか?」
「気持ちの問題だよ! 準備準備!」
説明書を読み終え、ゲーム機の電源を付ける。そしてディスクを入れると、しばらくして画面が暗転する。
企業のロゴのあと、広大な草原が映される。やがて勇壮な音楽が鳴り始めると、巨大な影が草原を覆う。カメラは真上を向き、太陽を一瞬映し出す。
「おおっ!」
現れたのは巨大な竜だ。それに大剣を背負った、たくましい大男が乗っている。眼下にはいつのまにやら大量の怪物がいて、男は剣を構え勇敢に飛び降り、瞬く間に怪物を蹴散らしていく。
振り下ろされる鉄の塊に、ある者は叩き潰され、ある者は宙へ吹き飛ばされ、ある者は体を真っ二つにされる。自分達以上の、規格外の怪物相手に次々と倒れていく怪物達。やがて敵を全滅させると、男は剣を天高く突き上げ、咆哮を上げた。
「Fantastic Fantasy」
音楽が止まり、画面が暗転すると、外国人の重く低い声が、部屋に響き渡った。
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