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『あんな事で呼び出して……そんなに怒ってたのかな。』
見廻りを開始し、黒目を忙しなく動かしながら斎藤に話を振る。
あれから琴音が副長室を出ると、一緒に斎藤もついてきたのだった。
「……。」
無視を決め込む斎藤。
この手の話しは聞きたくないとばかりに聞こえないフリ。
土方の事なら尚更のこと。
『……なら来なきゃ良かったのに。』
ぼそりと小さな口から生まれた冷たい言葉は、京の待ちの賑わいに紛れていった。
何かしらの理由で殺気が出ている琴音は、八つ当たりをお門違いの斎藤にぶつける。
「話を聞きたくないから総隊長について来た。
なのに………その話しはするな。」
最後に溜め息を付け足し、殺気を隠すように言った。
だが斎藤が
「見廻りは終わりだ。」
と声をかけた瞬間に、琴音は全力で走り出した。
「おい!」
慌てて追おうとする斎藤だが、琴音が走って向かうのは屯所の方面。
スピードを下げて呼吸を整えるが、斎藤は再び追った。
(何か嫌な勘が働く。)
嫌な感覚が拭えず、警報が煩く鳴る。
斎藤は琴音の殺気と態度が気になっていた。
琴音を知る斎藤にとって、今日の琴音は人が変わったように感じていた。
あの琴音が、嫌味っぽく愚痴を洩らす人間ではないからだ。
(疲れているのかと思ったが、何かあったのか?)
走り続けている斎藤は、琴音の姿をぼんやりとしか捉えることが出来ない。
速いのだ
琴音の足の速さが。
早い呼吸音と垂る汗が邪魔に思うが、止まったら追い付けないと斎藤は自分を奮いたたせた。
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