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「此の門を潜る者、戻る事望むなかれ、か。」
桟橋の両側にある、不思議な配置の門を見ながら、男はそう呟いた。
引き返すことを許さないといった言葉を編んだのは男ではなく、男はただ門に書かれた文字をそのまま読んだだけ。
ただ、皮肉にもその文字は、ここを潜ると出てこれなくなる人には解らないであろう文字で書かれていた。
「わざわざドイツ語で書く辺り、ここを作った輩はそうとう腐った人間なんだろうな。」
誰に話すわけでもなく、ただ悲しげな表情をわずかに浮かべながら男は呟いた。
勿論呟いたところで何が変わるわけでもない。
ただ、男にとってはそれでも呟かずにはいられない状況だった。
何故なら彼は、決して対象ではないのに、この島に来ざるを得なかった、数少ない人の一人だったからだ。
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