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2004年の有馬記念。
二人は中山競馬場にいた。どちらから誘ったまでもなく、それは自然な成り行きだった。
この一ヵ月、恵美は競馬にかなり詳しくなっていた。
あの馬の初陣に魅せられ、そしてその馬にあわせてくれた宏にも近づこうとしていたから…。
『ねえ、このレースタップダンスシチーは絶対ないと思うんだ。疲労が残ってるはずだから』
『俺はロブロイはないと思うな。いくら何でも秋3連勝なんて。』
二人はこんな会話ができるまでになっていた。
宏はコスモバルクからの馬単に賭けた。
『有馬は好きな馬を買うもの。今年盛り上げてくれたお前と心中だ!』
恵美はデルタブルースから。
『だって菊花賞は一番強い馬が勝つんでしょ?』
『お前どこで覚えたんだよ。それは3歳馬の話。今年はレベルが低いから絶対にないよ。』
かくして勝ったのはゼンノロブロイ。二着にタップダンス。無情にも二人が消した馬同士のワンツーだった。
『センスないね・・。』二人は顔を見つめながら苦笑いした。
一日遅れのクリスマス。その日万馬券を仕留めていた彼は恵美に何かプレゼントすることを提案した。
『今日は何でも買ってやるよ。クリスマスプレゼントだ』
『じゃあね。時計がいい!世界の時間がわかるやつ。』
『え?何でまた』
『いいの。それが欲しい』
二人は西船橋の駅から秋葉原へと向かった。
寒い師走の夜、電気街は活気づいていた。
恵美は宏に時計をプレゼントしてもらった。
『ありがとう。これからクリスマスパーティーだね。』
しかし秋葉原ではメイドカフェに行くぐらいしかなく、この街で有名なステーキハウスで乾杯した。
『ありがとう。来年は絶対にディープを追い掛けるんだ!競馬と宏に乾杯!』
さっそく時計を腕にしてご機嫌な恵美。しかしその時計の意味がまだ宏にはわからなかった…。
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