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黒衣の女性
「………………」
男の『遺品』となった物を女性はただ黙ったまま見下ろす。
衣服に焦点を合わせている筈の目に感情の色は無く、瞳は澱んだ赤一色に満たされていた。
そんな彼女に活を入れるかの様に、黒衣の中から不意に鳴り響く単調な電子音。
しかしそれにすら彼女の表情は動かず、淡々と音の発生源である携帯を取り出し耳元へ。
黒衣の女性
「始末、完了しました」
???
『見てたよ、ご苦労様。でも今回も外れだったみたいだね』
通話と同時、挨拶もせずに伝えられる言葉に電話先の相手は苦笑と労いの声をかける。
その言葉に、能面に似た顔に漸く浮かぶ感情の様な物。
それは口元を歪めた苦渋だ。
黒衣の女性
「すいません、役にたてなくて。やはり私は紛い物です」
???
『そんな事は無いさ。計画は君がいなければ成り立たないのだから。君の力は本物さ』
黒衣の女性
「でも……」
???
『私には君が必要なんだよ。あまり自分を卑下しないでくれ』
黒衣の女性
「すいません……。そして、ありがとうございます」
???
『お礼を言われる様な事じゃ無いさ。兎に角、わかってくれたみたいで何よりだよ』
男の声に強ばっていた顔筋が緩んで女性の顔にここに来て初めて咲く、小さな笑顔。
電話先の人間はそれが見えていたのかの様に安堵の息を吐き、新たな言葉を紡ぐ。
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