一章 超常と温もり

4/7
前へ
/7ページ
次へ
奇跡から日を跨いだ今日、もうすぐ奇跡も終りだ。 悲しい。また会えなくなるんだ。そりゃぁ悲しいさ。 俺の腹は決まっていた。 待っている父さんと母さんに告げる。 「俺…フェレスさんに着いていく。巴大付属高校に入るよ。」 母さんはコクリと頷く。優しい笑顔も一緒に。 父さんは俺を勇気づける様に頭を撫でている。 妹は……相も変わらず調子の良い笑顔でからかってくる。 ピンポーン 来た。昨日と全く同じ時間にチャイムが鳴った。 俺は玄関に向かいドアを開ける。 「どうも、間もなく時間です。ご決心はつきましたか?」 「はい。中にどうぞ。」 フェレスさんを案内しようとするが丁重に断られた。 「私はここで充分です。早速ですが……岸乃 誠様。巴大付属高校への入学はいかがされますか?」 俺は一呼吸いれてはっきりとフェレスさんに告げる。 「はい。入学します。」 フェレスさんはその言葉に笑顔を見せた。 とても優しそうな笑顔を。 「お時間です。」 フェレスさんのその言葉で理解した。 また別れるのか。 「辛い事は承知しています。ですが、死別は誰しもが直面する事実。受け入れてこそ人は強くなるのです。」 フェレスさんの言葉に後押しされ、俺は覚悟を決めて振り返る。 そこには光の粒になりながら消えていく家族の姿があった。 皆笑顔だった。まるで最後は温かく見送ろうと決めてたみたいに。 いや、妹が我慢できずに泣きながら抱きついてきた。 本当に泣き虫だな、そう呟いて俺も抱きしめた。 そうしたら父さんと母さんが隣にいて、俺をそっと抱いてくれた。 その中で、俺は最後の温もりを感じていた。 そうして完全に消えた家族。 残ったのは俺とフェレスさん。 「フェレスさん……ありがとうございました。」 「いえいえ、お礼を言われる事はしていません。」 フェレスさんらしい返答だと思う。 すっきりした気持ちになった俺はフェレスさんに急かす。 「フェレスさん、入学案内とかはないんですか?」 「おや、死別を受け入れたばかりだと言うのに……たくましい子だ。」 そしてフェレスさんは、また優しそうな―孫を慈しむ祖父の様な―笑顔を向けた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加