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「こら、あまり出歩かない!」
母親ははしゃいで走り回る子供をしかる。
家族旅行。
それが楽しく、はしゃいでいた、遠い記憶。
「だいじょうぶだよ!」
母親が叱るのを無視、多少長い草木が生える草原を走る俺。
あの時、母親の話をきちんと聞いていれば、俺は平凡な人生を歩み続けたかもしれない。
はしゃいでいた俺は、地面に大きく開いた穴に落ちてしまったのだ。
穴は緩やかに下り、いつしか大きな空間に出る。
しかし、もちろん明かりはない。
それにとてつもない恐怖を覚えたことを覚えている。
自分の歩く音は、周りに広がる闇に呑まれ、泣き叫ぶ声も外には届かない。
幼いながら、死を覚悟した。
親の言い付けを守っていれば、と、強い後悔も押し寄せる。
もうだめだ、そう思って座り込んだとき、《それ》は聞こえてきた。
・‥…助かりたいか?
その声に、孤独に押し潰されかけていた俺は、応じてしまった。
それが人生における最大の転換地点。
そして、暗い洞窟で意識を失った。
次に気がづくと、泣きながら俺の顔を心配そうに見つめる親の顔。
父親に頭を叩かれ、母親にはだき抱えられる。
俺は心のそこから安心したのを覚えている。
しかし、一つ、変わったこと。
空気中に金色に光る、半透明の綿のようなもの。
そのあとすぐに知ったことだが、それは空気中に浮かぶ、《魔導の源》。
元来、その物体は見える人と見えない人とが先天的に分かれている。
さらには、なぜかベス=グラニス帝国領内で産まれた人間は、かなり特殊な場合を除いてその物体を見ることはできない。
それがベス=グラニス帝国が機械学が進んだ原因でもある。
…とにかく、《あの時》まで見えなかったそれが、その出来事を境にはっきりと見えるようになっていた。
このことを話すと、父親は喜んだ。
魔導を扱える素質を持つ人間は、ティーティアにとってはいくらいても足りない人材なのだ。
すぐに軍の少年部に入れよう、そう父親は言ったが、母親は断固反対した。
ベス=グラニス帝国との戦争は、割と致死率の高い戦争だったのだ。
結局、父親は折れて、軍には行かなかった。
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