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馴染は、エレンの方へと歩き出した。笑ったまま、一色に何も言わず、腰に刀と拳銃を背負って。エレンもそれに反応して馴染の方を見る。そして見た時、怪訝とした表情を見せる。
「……スーツ本体はどうした? まさか山森さんの様に武器だけって訳じゃ無いだろう?」
「ヤマモリさん?」
「お前の隣席にいる奴だ」
そう言われて、馴染はエレンの言う人物が誰なのか理解することが出来た。あの、馴染が挨拶しても完全に無視したままで読書を続けていたあの女生徒。
恐らくは馴染の存在すら認知していないであろうあの女生徒のヒーロースーツが、武器のみの変身であると、そう言ったのである。
「下の名前を誰も知らない。常に誰よりも早く集合場所にいて、いつの間にかいなくなる。そんな奴だ」
「それ幽霊とかじゃないの?」
「……いてもいなくても同じ存在だが、腕は確かだ」
「ねえ、それ幽霊なんじゃ……」
「そんなことよりだ。お前はその状態が最善なのかと聞いているんだが?」
エレンが強引に話を打ち切ると、馴染は若干不満そうな表情を見せたあとすぐに笑い、手を腰のあたりでやれやれという姿勢にする。
「いや? 最善どころか最悪だぜ? 防御力ゼロ攻撃力一の現状況。最善な訳が無い」
けど、と馴染は続けた。より一層顔を歪めて、他人に不快感を与えるような笑みで笑いながら、次の言葉を淡々と言ってのけた。
「エレンちゃんなんかこれで十分ってことなんだぜ」
恐らくは、単にヒーロースーツを完全装備すると全く動けなくなる。だから武器だけで戦うことにしただけのことであろう。
しかし、ここで逢えての生死が掛かった強がり。この状況下で相手を挑発することに何のメリットもある訳が無い。馴染は、意味なんて全く無く、デメリットしか存在しないことを、恰も最前の策であるかのようにやってのけた。
馴染は、二本の刀を若干苦労しながら抜刀した。そして特に構えるでもなく、両手に持った。
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