第2章 馴染アンチ

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「やめて!」  そんな叫び声と共に、一人の女生徒がエレンを庇うように覆い被さり、馴染の視界からエレンが消えた。  いつの間にか、先程教室に居た生徒達が集まり始めていたようで、女生徒はこの状況下でエレンを救おうとしたのだろう。 「やめない」  馴染は躊躇なし。完全にノータイムで引き金を引いた。  しかし、あの馴染の言う所の『必殺技』程では無いものの、あらゆる拳銃には反動というものがあり、それに耐えられる筋力が無いと、狙い通りの場所へ弾丸が飛ぶことは無い。  馴染の拳銃から放たれたのは、先程よりは規模が小さいが、白いレーザー。レーザーは、馴染が先程空けてしまった穴とは別の場所に再び風穴を空け、静寂した。  そして、馴染からしてみれば単に反動で軌道がずれてしまっただけだが、その場に居る人間には威嚇射撃に見えたであろうそれは、エレンを庇った女生徒を委縮させるには十分だった。 「退きなよ。天井みたくなるよ」  馴染は、委縮した女生徒から即座に相手の思考を理解し、脅迫するように告げる。  表情で状況を即座に理解出来るという、有り得ない程空気を読むことに特化しているくせに、有り得ない程空気を読まない人間。それが馴染なのである。 「い、いやだ!」 「死ぬんだよ?」 「死なんて怖くない!」  女生徒は、なんとも自己犠牲精神に溢れる台詞を叫び、エレンをより一層に抱きしめる。体に突き刺さった刀が抜けていない為、エレンはかなり痛い筈だが、声を出さなかった。 「……本当ニ?」  そして、そんな女生徒の台詞から、馴染の口調が、変わった。 「……え?」 「本当ニ怖クナイノ?」 「…………」  委縮し、黙ってしまった女生徒。そして最悪なことに、馴染はその沈黙をYESと取った。 「そっか! 怖くないんだね! じゃあ君はこれから僕になにをされても怖くない訳だ!」 「え……!?」 「だって、生物にとって『死』というのはこの世で最も怖いこと。つまりは『死』が怖くないのなら、僕になにされても怖くない! 例え腕を剥製にされようが、生きたまま人体を使った人体模型にされようが! 全く怖くない!!」  女生徒の顔が、恐怖に歪む。これから自分が何をされるのか、恐ろしくて恐ろしくて仕方が無いのである。
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