あの時の二人

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要するに父はリリスに認められている訳ではない。 だが、それすら解らぬ父は、何故妻が自分の言うことを聞かないのかが理解できない。 こんなに優秀な自分の言うことを、だ。 だから父は言うことを聞く女に走った。 金で命令を聞く女 地位で命令を聞く女 自分の虚栄心を満足させてくれる女なら腐る程いる。 パーティー会場を険しい顔で足早に出た父。 そして父は今自分が最も心が動いている女の元へ向かった。 その女は自分の秘書であり、リリスに負けない程の美しさを持っていた。 虚栄心を満足させてくれ、美しさも妻に負けていない。 父の心が秘書に移るのにはさほど時間が掛からなかったようだ。 父は一応ではあるが、仕事ぶりを見てから秘書を決定していた。 つまりその秘書もそこそこ優秀であると云う事だ。 高価なマンションの最上階に住んでいる秘書は、いきなり父が現れても快く部屋に入れてくれた。 「そろそろ来る頃だと思っていた…」 紅い口紅を父の唇に移すように重ねる秘書。 長い時間唇を貪った父が漸く離れた。 「はは、君は何でもお見通しか。君は香でも焚いてリラックスしていたのか?いい香りが充満しているよ。」 「ふふ…リラックスじゃない、儀式よ…私は魔女だもの…」 相変わらず面白いジョークだと秘書の肩を抱いてベッドに行く父。 香はベッドルームの隣の部屋で焚かれているようだ。 そう云えば、その部屋には入った事は無かったな、と、思いながら、父は秘書の衣服を一枚一枚と脱がせていった。
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