あの時の二人

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秘書との情事は肉体的快楽と精神的優越感を満たす事ができる。 香が媚薬を兼ねているのかは定かでは無かったが、その快楽は未だかつて味わった事が無かった。 雌のように貪り、従順に父の性欲の『処理』をしてくれる秘書に溺れる事は至極当然と云えた。 普通の人間ならば。 終わってベッドに伏せる父。 身体中の汗がベッドに吸い取られたように衰弱をしていながらも、余韻に浸り、自分よりもまだまだ余力がある秘書を抱き寄せる。 秘書は必要以上に身体を密着させ、父の胸に顔を埋めながら甘えた声で囁いた。 「いつ奥様と別れてくれるの?」 「え?ああ…世間体って物があるから簡単にはいかないが、必ず別れて君と暮らすつもりだ。」 秘書はクスリと笑って呟いた。 「女を騙す定石よね。」 聞こえていたが、聞かなかった振りをして秘書の髪を撫でる父。 「いっそ死んでくれたらいいのにね。」 構わずに再び呟く秘書。 恐ろしい事を考えるものだと思いながらも、同意している自分も居る事を認める。
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