あの時の二人

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深夜 娘の部屋に足音を消しながら向かう父… 銃は音がするからダメだ。 ハンマーで頭を殴って、部屋に吊してあるシャンデリアの鎖を切って落下させればいい。 それならば事故に見せかける事ができる。 いつもならばそんな短絡的な事は決して考えない筈の自分を、第三者のように傍観している自分が居る。 何かおかしいが、鼻に残っている香が全ての思考をかき乱している。 ただ、娘を殺す自分は虚ろながら平静でいるような気はした。 ドアに手を掛ける父… 息を殺してその扉を開ける。 娘は部屋の中央で、毛布にくるまっているように寝ている。 それを毛布の盛り上がりのみで確認した父は、ゆっくり、ゆっくりとベッドに近付いた。 そして毛布に手を掛け、一気にそれを引っ張り上げた。 「!?居ない!?」 寝ている筈の娘の姿が無い。 気付かれた? 動揺するかと思ったが、至って平静な自分に驚いていた。 気付かれる筈は無い。 何故ならば、殺すと決めたのはつい先程なのだから。 トイレにでも行ったのだろうとグルグル回る思考を振り切るように頭を振る父。 ゴトン ビクリと身を震えさせ、音がした方向を見る。 そこはクローゼットだった。 そう 人一人以上、楽に隠れる事が可能なクローゼットだ。
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