0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あー…暑い…」
あれから十年。
「暑いか?」
こいつはずっと俺のそばに居続けている。
「暑いさ…お前は感じないだろうけど。」
グロームの紫水だと名乗ったこいつは精神世界の住人だから、現実の気候なんかは無視できるという。
羨ましい限りだ。
「感じないことぐらい分かってるだろうが。」
つんつんはねている髪の色は紫。もちろん常人などではない。
「分かっててもだなぁ……あ!」
「あ?」
「友達に本借りてたんだった…ちょっと返しに行きたいな…。暑いし、パパっと…」
ちらりと横目で見ると、紫水は渋い顔をした。
「俺の能力をそんなことで使うんじゃない。」
「えー…」
「えー…、じゃない。」
「咲蓮の家に行きたいって言ってるのに?」
「か、咲蓮の家…?」
「そ。臼杵咲蓮の家!」
ポリポリと頭をかく紫水。
かかったな、と内心でほくそ笑む。
「あー…まぁ…今日は、暑いしなぁ…」
「お前がいかないってなると、ちょっと遠いし…やめとこうか。」
「俺はいかないとは一言も言っていないぞ。」
「じゃあよろしく♪」
「…まったく世話の焼ける…」
と言いつつ、顔がにやけている。
説得力ないなぁ。
「いくぞ、桐晶。」
最初のコメントを投稿しよう!