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「ああ…咲蓮さん…!」 紫水が隣りで叫んでいるのを聞いて危うく笑いそうになる。 「じゃあまた明後日、学校で会おう。」 「うん。わざわざありがとね。」 パタン。ドアがしまった。 「彼女は女神様だ…」 呟く紫水を蹴り飛ばす。 「ってえな!」 「いくぞ、用事は済んだ。」 蹴るなよ…と紫水が呟くのを聞きながら、俺は両足につけているアンクレットに軽く触れる。 淡い紫色の光が弾けて、紫水が消えた。その代わりに同じ色がアンクレットに集まり足を包む。光が収まると、そこには紫に淡く光る靴が顕れる。 紫水は俺の足につけているアンクレットによって顕れるグロームで、足に憑き、様々なことができるようになる。 例えば右足で滑るように走れるようになるし、左足ではスパイクのようになる。そして驚くべきことに-空を走ることもできる。 「いくぞ紫水!」 『おうよ!』 地面を思い切り蹴って、真上に飛び上がる。一気に地上50mくらいまで上がり、そこから左足に力を溜める。 「せーのっ!」 左足を思い切り蹴ると破裂音がして、眼下の景色が溶ける。 数回で、自宅の屋根に到着した。 「オッケー。紫水戻っていいよ。」 靴を脱ぎたいのだが、紫水はなぜか離れる様子がない。「紫水?…おい、紫水!」 『…可憐だったな…咲蓮さん…』 俺の感想は冷ややかな呟きになった。 「親父ギャグ…」 しかし運の悪いことに紫水はそれを聞いていた。 『何だと?…よくも言ったな…よし、お前の足にずっと憑いててやる!』 「え、いや、それはちょっと…」 靴を履いたまま部屋には上がりたくない。いくら他の人に見えないし汚れないとはいえ、それは生理的に嫌だ。 『じゃあ前言撤回しろ。』 「本当のことを言ったまで」 『ならいい、このままだ。』 しばらく黙っていると、いきなり足下の紫色が弾けた。 『…いきなり黙るなよ…』 紫水は構ってもらえないと死んでしまう類いの生き物だ。そこら辺はわきまえている。長い付き合いだからね。 「はいはい、戻ってくれてありがとうございました。」 人の形に戻った紫水はあからさまに嫌そうな顔をした。 『だいたいお前は俺に対しての敬意ってやつがだな…』 紫水の小言を聞き流しながら、今日も平和だなと呟く。たしかにグロームは非日常の塊だが、友好的なのだ。
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