序章,裏切り者

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――…文久三年 皐月中旬。 「私は何もしてないっ! どうして信じてくれないの!?」 「貴女も分かっているはずです。 こうして斬られる理由を」 「分からないよっ! 私が何をした?」 巡察と称されたそれは、ただの斬り合いでしかなかった。 ――それも、仲間同士の。 「へえ、まだ惚けますか。 貴女、間者なのでしょう?」 「は……? 知らないよ」 「いい加減腹を括れ。 耳障りで堪らん」 「一、嘘でしょ?」 一が、刀を向けている。 誰に……? 私に、だ。 間者なんて知らないし、ましてやなったつもりもない。 誰かに、嵌められた――…? 「……ッ」 「――待ちなさい!!」 信じてくれないなら、逃げるまで。 今までずっと過ごしてきた仲間は、もういない。 絆なんて、友情なんて、糞くらえ。 ――そんなの、無に均(ヒト)しいじゃないか。 「遥! 待て!」 もう、止まらない。 私は彼等にとって所詮、裏切り者なのだから。
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