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「…昇馬、お疲れさん」
まさに茫然自失となっている昇馬に、辻が話しかけてきた。
「…先生…」
昇馬は力無く俯いて、呻くように声を絞り出す。
「今日のは…違うんです…。俺はもっとやれるのに馬が…言うこと聞かなくて…」
「…お前、最低だな」
「えっ…?」
昇馬が聞き返す間もなく、辻はその場を去って行こうとする。
「先生!待ってください!俺は…俺はもっとやれるんです!先生っ!!」
昇馬は叫んで追いかけるが…
「やめんか、昇馬!」
そばにいた中岡に腕をガシッと捕まれた。
「源さん!源さんからも言って下さいよ!俺は…」
「いい加減にしろ、昇馬!」
「源さん…でも…俺は…」
「まあ、聞け」
なおも同じ言葉を繰り返そうとする昇馬を諭すように中岡が話し始める。
「辻先生はお前が負けることを想定していたと俺は思う。先生がコクオウの馬主さんに頼み込んでお前に騎乗を任せた時からな。なぜかわかるか?」
中岡の言葉に、昇馬は小さく首を振る。
「それはな、負けることによってお前が得るものがあると思ったからだよ。事実お前は負けた。何も感じなかったか?」
「……」
本当は昇馬もわかっていた。
でも、認められなかった…ダメなのは自分だったのだと…。
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