小岩井昇馬とライジングサン

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中岡の言葉にショックを受けた昇馬は、夢遊病者の様に厩舎をさ迷った。 そして気が付くと、ライジングサンの馬房の前にいた。 ライジングサンは何事かと顔を向けるが、昇馬とわかったのかそっぽを向いてしまう。 昇馬はそんなライジングサンを見て、申し訳なさそうに下を向くが、やがて意を決した顔つきでその場にドカッと正座をし、額を地面にこすりつけるように頭を下げて言う。 「すまなかった、サン!お前を駄馬呼ばわりして…本当にダメなのは俺の方だったのに…すまない、許してくれっ!」 昇馬にとって産まれて初めての土下座。 しかも人ではなく、馬を相手に。 通じるわけがない…わけがないのだが昇馬は以前中岡に言われた言葉を思い出した。 競馬で大事なのは、人と馬との対話だと。 その時は何を言ってるんだ?と心の中で笑い飛ばしたが…今になって良くわかった。 その言葉の意味が…。 自分の…騎手の力だけでは勝てないのだ。 人と馬の力が一体となって初めて本当の力が発揮される。 昇馬はやっと気付いた。 そして…土下座したまま、なおも叫ぶ。 「お前の力を俺に貸してくれ!頼む…頼むっ!」 昇馬の必死の願いに、ライジングサンはそっぽ向いたままで…軽く尻尾を振って答えたのだった。
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