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「昇馬のやつ、負けたな…」
スタンドから双眼鏡でレースを観ていた辻がポツリと呟くように言った。
付き添いで来ていた中岡も小さく頷く。
そう。誰が観ても明らかだ。
昇馬は完全にペース判断が出来ていない。
断トツの1番人気の馬はマークされる。当然のことだ。
しかし、昇馬にはその経験が無い。
他馬のマークに合い、翻弄されるだけだ。
辻は深い溜め息をつくと、レース途中でスタンドをあとにした。
事実、昇馬は混乱していた。
どうして良いのかわからない。
活路が見出だせないまま最後の直線に突入する。
「クソッ!なんで…なんでだっ!?」
何も出来ないままでいる昇馬。
むやみに鞭を振るって馬を鼓舞するが、周りは他馬の壁。
焦って外に出そうとしても身動きがとれない。
結局動けずにしんがり負けを喫してしまった…。
「なにやってんだ、この未勝利野郎!」「やめちまえ!」などの観客の野次が聞こえるが、昇馬はその声に反論出来るわけもない。
馬主を含めてどれだけの人が損をしたことか…今さらながら昇馬は責任の重さに押し潰されそうになっていた…。
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