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会社をでて、来たときとは違う私鉄の駅に向かった。この駅からだと直通で一本でいけるらしい。
電車の中で、経理の田口さんが話をしだした。
「本部長が珍しくすごく気に入ったのよ。井上さん。若いし可愛らしいし、物静かなのね。連絡がとれないときは、まだかまだかって大変だったわ。空港に必ず迎えにだとか、寮に案内だとか、すごく気を使ってるみたいよ」
…ごめんなさい。あたし、物静かじゃない。
田口さんは率直に話をするけど、嫌味っぽくはないし、口調も柔らかい。
優しいお母さん。そんな感じ。
「でもね、ほんというと、私達もラッキーよ!だって定時前に堂々と帰れちゃうんですもの。井上さんのおかげね」
上品な口調なのに、お茶目なことを…
そして、私鉄はなぜか途中から乗ったままJR線に変わり、千葉県に入った。
「次ですよ」
「あ、はい」
駅を降りると静かな町。
私は、前に一度だけ行ったあきちゃんの会社の寮を思い浮かべていた。
一棟まるごと寮で、たくさん会社の人がいる。女子寮だし、二人で1部屋って話しだった。
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