3章.graduale「血と肉」

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既に血と肉を失っている俺には、血の繋がりなど殊更どうでも良いことだと思った。 しかしながらふとした瞬間に気になる。 果たして世間一般的な普通の兄と弟は、どう在るべきものなのだろうか。 ――――わからない。 そもそも普通って何だ。 何を持って普通と表現するのだろうか。 これは単なる予想だけれど、例えば血が繋がっているからこそ許せないことがあり、血の繋がりを感じるからこそ憎悪を抱くことだってあるのではないだろうか。 まあ兄弟のいない俺にとっては、すべてが想像なのだけれど。 ****** 何故か頭が酷く重い。 目を開けると、目の前には未だ見慣れぬ端正な寝顔があった。 一瞬悪い予感に意識が遠のきかけたけれど、それを全力で否定する。 いや、いやいや。 いくら橋本が下半身にだらしがないからと言って、同室者に手を出すような馬鹿な真似はしないだろう。 横になったまま橋本の寝顔をじっと見つめ、自分の体の状態を探るようにして手を動かす。大丈夫。服は着ている。腰も痛くない。特に体に違和感はない。 それなら何故橋本が同じベッドに寝ているのだ。そう思った瞬間、突然橋本がパチリと瞳を開いた。それから二、三度瞬きをし、俺の顔を見て微笑みかけてくる。 「ああ……天草、おはよう」 寝起きのためかその声はやや掠れ気味で、これは橋本を好きな奴にとってはやばいかもなあとどうでも良いことを考える。 あ、その橋本を好きな奴らに二人仲良く同じベッドで寝ていたなんて知れたら、ヤバいのは俺か。 橋本にだって親衛隊はいるのだ。「天草忍」として学園に転入してきた当初は、橋本様といきなり同室になるなんて、と小さな嫌がらせをされていたけれど、特に相手にもしていなかったし、橋本とはただの友達というスタンスを貫いていたら、徐々に嫌がらせは無くなっていった。岡崎なんかに比べれば可愛いものだ。 それでも橋本は2年生唯一の生徒会役員で、次期生徒会長になるのは確実だ。親衛隊の規模もそれに伴って大きくなっていくだろう。 「……何で同じベッドに寝てるんだ」 「え?ああ、昨日寝る前に一緒に音楽聞いてたから。ほら」
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